お守り







ぱちぱちと燃える暖かい火。
暖炉の前は憩いの場所だ。
火にむかいあうように置かれた一脚の椅子、その背に上着がかけられているのをみつけ、少女はそれを手に取った。
それはふうわりとした風合いの不思議な軽さの布でできている。触ると掌にこころよく、ずっと触れていたいような気になる材質だった。
さすがは魔法使いの上着というべきだろうか。
女の子を虜にする魔法以外にもいろいろ特別なのかもしれなかった。
その持ち主とおなじく油断ならない上着だとは思いつつ、ついつい好奇心に耐えかねて、ちろちろと燃える暖炉の明かりにくちどめのウインクをひとつして、少女は主不在の間にこっそりはおった。暖炉の火は「しらないよ」だとかなんとか呟いていたが気にしない。
魔法使いの上着は軽やかにひるがえり、羽のように少女の肩にとまった。
それは、実に具合のいい上着だった。
軽いのに軽すぎず、肩に心地よいおもみがかかる。
魔法使いの真似をして、袖を通さずに肩の上にかけた少女は鏡の前に移動して、上着を肩に引っ掛けた自分のすがたをためつすがめつする。ちょっとえらそうに腕を組んだり。笑いかけてみたり、大股で歩いてみたり、おすまししてみたり。プラプラと揺れる袖を指で弾いてみたり、悪巧みをしているような表情で上目遣いをしてみたり。魔法使いの上着はどれも様になった。火の悪魔はそんな少女にちょっと呆れ顔だ。
ひとしきり堪能したあと暖炉の前の椅子に腰をかけると、背もたれに体重を預けてふっと息をついた。よくその主がしているように。しばらくそうしていると、普段との違いに気がついた。
あったかい。
上着に包まれているのだから当たり前といえばそうなのだろうが、上着の内側にこもる熱は自分ひとりを暖めるのに丁度よく過不足がない。上着に包まれていると守られてるみたいだ。それはささやかな自分だけ隠れがのようで、わざと袖をとおさないのがわかるきがする。袖を通すと安定するけれども自分と完全に一体化してしまい、他者にゆだねるような安心感からは遠ざかる。上着は他者への威嚇のようにみえてそうではない。外界への盾そのものだ。
「臆病な魔法使い。」
少女は口の中で呟いて、心地のよい上着を肩からぬくと軽くくちづけた。
このお守りが彼が彼らしくあるために守ってくれるならば、それは彼女にとっても大事なお守りだ。
少女は何事もなかったように上着を元通り椅子にかけ、魔法使いが戻ってきたら迎える準備をはじめた。











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